電子ブロックのためのラジオ回路                  2006年12月10日 梅村恭司 

 

 

1. はじめに

子供のころ、電子ボードや電子ブロックで、付属の回路図集を見て、そのまま配置して、音ながったり、ラジオが聞こえたりすることは、まるで魔法の地図を手に入れたような気分になりました。単に、付属回路図集のブロックの絵に記載されているものを、そのまま、正確に配置するだけの作業で、創造性もなにもない作業のようですが、なにかを作る作業の基礎としては、子供時代の自分にはよいトレーニングであったようです。

 電子ブロックが復刻されて、懐かしくなり、購入しました。40年近くの年月を経て、自分でも回路を作れる知識を身につけていますので、そのままの回路を実験するのではなくて、自分で回路を考え、同時にブロックの配置をパズル感覚で楽しみました。自分で考えたとはいえ、いままで見てきた数多くの回路図を参考にしており、特別のオリジナリティがあるわけではありませんが、回路を電子ブロックで実現した配置は、オリジナリティがある結果と思いました。そして、ただ、実現するだけではなく、「部品を含むブロックを銅線として使わない」という制約を満足するように配置をしました。線だけのブロックの数が限られているので、制約を満たす作業は「無駄な計算をしない」あるいは、「制限のあるなかで機能を実現する」という本業のプログラミングの趣味にも似ておりました。

 電子ブロックで回路を組み立てるというだけでも、おもしろいパズルなのですが、それにさらに、厳しい制限を課して回路を組み立てるという遊びをしましたので、それがどのようなものかを説明するために、結果として組みあがったブロックの配置の写真を示して説明しようと考えました。

 

 

2. 読みやすい配置の問題

 

 電子ブロックはブロックの写真をとると回路図になるということですが、そのような回路は、必ずしも読みやすい形になっているとは限りません。読みやすさとは、個人の趣味の問題であり、本質ではないとは理解しますが、素子の部分を使わないで、電線としてブロックをつかうことが読みにくくなる原因のひとつと思いました。また、通常の回路図で直線であるグラウンドが、複雑な形になるのも原因であると思いました。そこで、ブロックの写真で見やすい回路図になることを心がけて作成してみました。

 ここで読みやすい配置とは、0Vの基準電位が直線状に配置されるということと、素子を含むブロックは、素子が電気的に使われるということを条件とした配置のことです。

              写真1:検波前1段、検波後1段増幅のラジオ回路

 

 

3. トランジスタの非線形特性と直流特性の安定化の問題

 

トランジスタは増幅する機能だけでなく、通電が始まる条件(カットオフ点)の動作特性を利用すると、ダイオードと同じように振幅変調の信号の検波を行うことができます。これを使った検波回路をトランジスタ検波回路と呼び、付属の回路図集にもサンプルが掲載されています。トランジスタ検波回路では、通電の始まる部分の電圧を上手に設定するという問題があります。トランジスタ検波の回路は、トランジスタをカットオフぎりぎりの動作をするようにベース電圧を設定することでラジオが検出する最小の信号強度が下がります(感度が上がります)し、ここをうまく調整しないと感度が下がります。抵抗の値を調整してもよいのですが、電源電圧などの変動で安定した電圧を提供するのは難しいもので、回路の調整も必要になるでしょう。そこで、このカットオフ点を提供するために、別のトランジスタを利用することにした回路です。トランジスタを背景は、カットオフ点の条件は、半導体の物性から定まるので、個体差はあまりないだろうという考えがあります。

 動作点を設定するために、別のトランジスタを利用するという考え方は、ICの中ではよく使われます。また、この考え方は差動アンプの回路にもあります。同時に、この回路は、実際のトランジスタの電気特性を十分に知るということのきっかけになると思われます。

 

              写真2:トランジスタ検波ラジオ

 

 

3. 交流特性の安定化の問題

 

電子ブロックに付属する説明書のなかで、検波前の信号を2段で増幅することは、回路が不安定になりやすいという記述がありましたが、それをあえて2段に増幅する問題設定をしました。また、回路図が読みやすいようにするという制約も満たすようにしました。この回路で、電源からの線の最初に4.7Kオームの抵抗が入っていることが特徴です。ひどいエネルギーの無駄使いというように思われかもしれませんが、電源のラインは、どのように引き回されているかわからないので、ここからの影響で不安定になることが多いことは容易に想像できます。そこで、このラインを安定化するために、抵抗とコンデンサを配置しました。また、何気ない初段の増幅回路ですが、入力にも気を使っています。

 

              写真3 検波前の2段増幅回路をもつラジオ

 

4. ゲイン不足の問題

 

与えられた材料で弱い電波も受信できるラジオをつくるという問題設定をしてみました。そのために、ブロックの回路で、検波前に2段増幅し、検波後にも2段増幅する回路としました。トランジスタは2個しかありませんので、必然的にリフレックス回路となります。この回路は利得が高く、不安定になる可能性が高いという問題があります。そこで、検波した信号を戻す部分については、検波後の初段に回り込みを防ぐローパスの機能をもたせながら、同調回路からの入力は減衰せずに初段へ入力されるように気を使う必要がました。

増幅の段数が多いため、本来ならば、電源部分の安定化は行わなければならないのですが、信号を逆向きに戻すことと、初段の入力回路を実現するために、縦方向の配置の条件が厳しいため、安定化のためのコンデンサの配線がうまくいかず、電源部分の安定化の回路は実現していません。配置の制約から、電源を安定化するレイアウトがうまくいかなかったので、ここは負帰還となる自己バイアス回路でごまかしました。本当の回路の配線では、安定化を実現するときの問題はないのですが、これが電子ブロックでの回路の特殊事情であり、それでも動作させるように工夫するというのが面白いところです。

実際に、この回路を組むと、ほかのラジオ回路に比べて高いものであることが確認できます。ただ、選択性能が悪いので、強いローカル局の混信が問題になりますし、ローカル局に同調するようにすると、信号が大きすぎて飽和してしまいます。この欠点があるので、実用的なものとはいえないのですが、逆に、与えられた素子を増やすことなく、他の回路では聞けなかった放送局がきこえるというのは、回路の価値を実感させてくれるものです。

 

              写真4 与えられたブロックによる検波前2段、検波後2段増幅のラジオ回路

 

5. スペースと素子の最大活用の問題

 

電子ブロックを箱にもどすときのために、全部の部品を使い切った上で、なにか意味のある動作をするというブロックの配置を考えました。まったく電気の流れないブロックをつめていくのでは簡単ですので、すべてのブロックとブロック内部の素子に、なんらかの形で通電があるものを条件として考えてみました。すべてを使うということを条件にしましたので、回路が読みにくくなってもかまわないという条件としました。

 組み上がったラジオは明るくなると動作をし、電波に含まれる音声の出力でメータを振らせます。さらに、電池が消耗していないかを示すパイロットランプもつけてみました。キースイッチは音質変化です。全部を使うという条件を満たすために、変な使い方になっている抵抗がありますが、少なくとも「素子を通電する」という条件を満たすようなものになりました。

 

 

              写真5:音質制御、照度制御、および、電波音声出力メータつきラジオ

 

最後に

ここで示した回路は、手元にある実機で動作確認してありますが、回路素子の特性は、すべての電子ブロックで同じであるというわけにはいかないので、実験すると動作しなかったり、不安定であったりすることは避けられないのはご了解ください。また、回路そのものは、多くの先人の文献に載っているものと大差はありませんので回路の引用や転載は自由にしてください。ただ、写真のブロック配置をそのまま利用して記載する場合には出所の情報の記載をお願いします。また、この報告が参考になった場合には、適切な引用がなされることを希望します。最後に、電子ブロックを復刻していただいて、ありがとうございました。